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路地の丘の家

街全体を楽しむ家

 

都心の一角にある敷地周辺は、高低差のある地形に路地が張り巡らされている。

 

どこに続くのか分からない細い道が入り組んだ感じや、街に住む人の息遣いが聞こえてくるような距離感にドキドキしたり、急に空が開けた場所に出くわして高揚したりと、整然と整備された都市にはない、親密な魅力がある。

ブロック塀が屏風のようにめぐり、隙間から赤や青のタイルが顔を覗かせ、足元には新旧入り混じった継ぎはぎが残る。それらが重なって見える時、不思議と心地の良い風景がひろがる。

 

いつしか消えゆくかもしれないこの魅力的な風景を記録するような、時間を紡ぐようなデザインのあり方がないだろうかと考えていた。

それは、この場所が気に入っていて、近隣のマンション暮らしから引き続きこの街の中に住居を求めた施主の、この場所ならではの家をつくって欲しいという希望に合致し、我々は街全体を楽しむことができるような、より大きな範囲で家を捉えることを設計のテーマとした。

 

街に散らばるアイデアやリズムを拾い集め、街の縮図を家に写し込むことで、家の中に街がひろがっていくことを考えた。家の中の街は、周囲の街並みとシームレスにつながり、内外の区別なく連続していくように、平面的・断面的に注意深く操作をおこなった。

街の中に家があり、家の中に街が広がり、さらには家の中の街が外に連続していく、不思議な入れ子構造が現れる。

街から帰ってきた時も家から街へ出ていく時も、内外の空間が連続し、切断されない感覚の心地よさは、家という範囲を飛び越えて、街を楽しみながら暮らすことに繋がるであろう。

 

三層の空間はそれぞれの周辺環境に応答して全く異なる表情となり、家族四人が思い思いの場所を選んで移動する。

三層を貫き、立体的に屋外と繋がる移動空間は、心地の良い光と風の通り道ともなる。これは地面から空へと抜ける、とっておきの場所へと導く道である。

そして最上階から隣家の屋根並みを眺めながら、街の主役はそこに住む人々であり、未来の街をつくっていくことも彼ら自身であることを、改めて自覚するのである。

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